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The another story of ...#3
「本当に久しぶりだね。今日はどうしたの?」
「……ちょっと職場の買い物。のび太さんは?」
「……僕も、買い物だよ」
「………」
「………」
沈黙が、僕達を包んでいた。
本当は色々と話したいことがあった。ジャイアンのこと。スネ夫のこと。僕のこと。そして聞きたかった。しずかちゃんのことを……
だけど、こうして思いがけず会うと、なぜか言葉たちが引っ込んでしまっていた。
それでも、言葉こそないが、とても懐かしい雰囲気だった。とても心地よい、あったかい雰囲気だった。
ただ、いつまでもこうして黙っておくわけにもいかなかった。
「……しずかちゃん、仕事忙しそうだね」
「う、うん……休みがほとんどないわ」
「そっか……大変だね」
「うん。でも、とても充実してるわ」
「そっか……。――あ、でも、体には気をつけてよ?忙しい時こそ、体調を壊しやすいんだし」
「そのあたりは大丈夫よ。相変わらず心配性ね、のび太さん。フフフ」
「しずかちゃんこそ。相変わらずだね。フフフ」
「………」
「………」
……再び、沈黙が訪れた。
流れる沈黙の中で、必死に自分を奮い立たせていた。今しかない。今しか、チャンスはない……
震える唇を噛み締めて、ようやく、声を絞り出した。
「……ええと、しずかちゃん」
「……なぁに?」
「こ、今度、二人でご飯でも―――」
「――ごめんしずか!資料がなかなか見つからなくて!待たせてしまっ―――」
「―――」
……あと少しのとこまで来ていた言葉は、再び喉の奥へと逃げていった。いや、正確には、飲み込んでしまった。
しずかちゃんの元に駆けよって来た、その人物を見たせいで―――
「……で、出木杉……」
「……野比、くん……」
「で、出木杉さん……」
「………」
三人とも、言葉を失ってしまった。まるで石になったかのように、全員動けずにいた。
――そんな僕らに向かって、更に声がかかった。
「――のび太くんお待たせ!自動販売機が思ったより遠く…て……」
「……さ、咲子さん……」
「………」
その場に固まるのが、4人に増えてしまった。
「……やあ野比くん。久しぶりだね」
沈黙の中、一番最初に口を開いたのは出木杉だった。
「あ、ああ。久しぶりだね……」
「今日は、出木杉さんと職場の備品を買いにきてたのよ……ね?出木杉さん?」
「そうなんだ。しずかと、二人きりで、ね……」
「………」
久々に会った出木杉は、しずかちゃんを呼び捨てにしていた。そして、二人で出かけていたことを、やけに強調させる。
今の彼は、以前会った時とは全く違う。――まるで、僕に対して、威嚇をするようだった。
「……ところでのび太さん。その人は?」
しずかちゃんは僕の背後に立つ咲子さんに視線を向けた。
「あ、ああ。この子は……」
「―――ッ」
そう言いかけたところで、咲子さんは僕の前に出た。そして、しずかちゃんの正面に立ち、少し速めに一度だけ会釈をした。
「……初めまして。私、花賀咲子といいます。のび太くんとは、職場の同僚です」
「え、ええ……はじめまして。源しずかです。よろしく」
「……出木杉です。花賀さんは、野比くんとお出かけかな?」
「ええそうですよ。今日は、二人で出かけてるんです。」
「………」
「のび太くん。もう行こ」
「え?――あ、ちょ、ちょっと――」
咲子さんは、僕の手を強引に掴み、ツカツカとその場を離れはじめた。慌ててしずかちゃんの方を見る。しずかちゃんは、一度僕に視線を送り、そのまま出木杉と歩いて行った……
「………」
「……さ、咲子さん……?」
「………」
「……ね、ねえ……」
「………」
(……まいったな……)
さっきから、ずっとこの調子だ。
それまでの上機嫌とは打って変わって、とにかく不機嫌になっている。こうやって僕の前をただ歩き。一言も口にしない。
本当はしずかちゃんが気になったけど……しばらく僕の手を放してくれなかったし、こんな調子の彼女をほっとくわけにもいかず、結局しずかちゃんとの久しぶりの再会は、ほんのわずかな時間しか叶わなかった。
「……さっきの人、誰?」
「え?」
「さっきショッピングモールにいた人!!誰!?」
「ええと……」
……そうか、出木杉か。確かにあいつ、かなりのイケメンになってたな。身長だって高いし。
この世の中、イケメンこそ、男の中でもっとも位の高い身分なのだ……
「……あいつは出木杉って奴で、大手の企業に勤めてて……」
「――そうじゃなくて!!」
そう叫ぶと、彼女はようやく足を止めた。そしてしばらく黙り込み、ゆっくりと振り返った。
「……あの女の人……誰よ……」
「……え?」
「え?えっと……しずかちゃんのこと?」
「……そうよ。その“しずかちゃん”のことよ」
彼女は目を伏せたまま、どこかふてくされたように言う。まるでおもちゃを買ってくれなかった子供のようにも見えた。
「ええと……しずかちゃんは、出木杉と同じ企業に勤めてて……」
「そういうのはいいの!のび太くんとの関係!」
「あ、ああ……しずかちゃんは、僕の小学校の時の同級生なんだよ。――あ、中学校も一緒だったか」
「ふ~ん……それで仲がいいのね………で?付き合ってたの?」
「つ、付き合う!?」
「……その反応を見る限り、付き合ってはないみたいね……」
「………」
「……ホント、分かりやすい反応するのね……ボソッ」
「……え?何か言った?」
「なんでも。――それより、ご飯食べに行きましょ。私、お腹空いちゃった」
そう言うと、彼女はまた前を向いて歩き始めた。
僕はそれ以上何も言えず、ただ彼女に付いて行くだけだった。
つづく
「……ちょっと職場の買い物。のび太さんは?」
「……僕も、買い物だよ」
「………」
「………」
沈黙が、僕達を包んでいた。
本当は色々と話したいことがあった。ジャイアンのこと。スネ夫のこと。僕のこと。そして聞きたかった。しずかちゃんのことを……
だけど、こうして思いがけず会うと、なぜか言葉たちが引っ込んでしまっていた。
それでも、言葉こそないが、とても懐かしい雰囲気だった。とても心地よい、あったかい雰囲気だった。
ただ、いつまでもこうして黙っておくわけにもいかなかった。
「……しずかちゃん、仕事忙しそうだね」
「う、うん……休みがほとんどないわ」
「そっか……大変だね」
「うん。でも、とても充実してるわ」
「そっか……。――あ、でも、体には気をつけてよ?忙しい時こそ、体調を壊しやすいんだし」
「そのあたりは大丈夫よ。相変わらず心配性ね、のび太さん。フフフ」
「しずかちゃんこそ。相変わらずだね。フフフ」
「………」
「………」
……再び、沈黙が訪れた。
流れる沈黙の中で、必死に自分を奮い立たせていた。今しかない。今しか、チャンスはない……
震える唇を噛み締めて、ようやく、声を絞り出した。
「……ええと、しずかちゃん」
「……なぁに?」
「こ、今度、二人でご飯でも―――」
「――ごめんしずか!資料がなかなか見つからなくて!待たせてしまっ―――」
「―――」
……あと少しのとこまで来ていた言葉は、再び喉の奥へと逃げていった。いや、正確には、飲み込んでしまった。
しずかちゃんの元に駆けよって来た、その人物を見たせいで―――
「……で、出木杉……」
「……野比、くん……」
「で、出木杉さん……」
「………」
三人とも、言葉を失ってしまった。まるで石になったかのように、全員動けずにいた。
――そんな僕らに向かって、更に声がかかった。
「――のび太くんお待たせ!自動販売機が思ったより遠く…て……」
「……さ、咲子さん……」
「………」
その場に固まるのが、4人に増えてしまった。
「……やあ野比くん。久しぶりだね」
沈黙の中、一番最初に口を開いたのは出木杉だった。
「あ、ああ。久しぶりだね……」
「今日は、出木杉さんと職場の備品を買いにきてたのよ……ね?出木杉さん?」
「そうなんだ。しずかと、二人きりで、ね……」
「………」
久々に会った出木杉は、しずかちゃんを呼び捨てにしていた。そして、二人で出かけていたことを、やけに強調させる。
今の彼は、以前会った時とは全く違う。――まるで、僕に対して、威嚇をするようだった。
「……ところでのび太さん。その人は?」
しずかちゃんは僕の背後に立つ咲子さんに視線を向けた。
「あ、ああ。この子は……」
「―――ッ」
そう言いかけたところで、咲子さんは僕の前に出た。そして、しずかちゃんの正面に立ち、少し速めに一度だけ会釈をした。
「……初めまして。私、花賀咲子といいます。のび太くんとは、職場の同僚です」
「え、ええ……はじめまして。源しずかです。よろしく」
「……出木杉です。花賀さんは、野比くんとお出かけかな?」
「ええそうですよ。今日は、二人で出かけてるんです。」
「………」
「のび太くん。もう行こ」
「え?――あ、ちょ、ちょっと――」
咲子さんは、僕の手を強引に掴み、ツカツカとその場を離れはじめた。慌ててしずかちゃんの方を見る。しずかちゃんは、一度僕に視線を送り、そのまま出木杉と歩いて行った……
「………」
「……さ、咲子さん……?」
「………」
「……ね、ねえ……」
「………」
(……まいったな……)
さっきから、ずっとこの調子だ。
それまでの上機嫌とは打って変わって、とにかく不機嫌になっている。こうやって僕の前をただ歩き。一言も口にしない。
本当はしずかちゃんが気になったけど……しばらく僕の手を放してくれなかったし、こんな調子の彼女をほっとくわけにもいかず、結局しずかちゃんとの久しぶりの再会は、ほんのわずかな時間しか叶わなかった。
「……さっきの人、誰?」
「え?」
「さっきショッピングモールにいた人!!誰!?」
「ええと……」
……そうか、出木杉か。確かにあいつ、かなりのイケメンになってたな。身長だって高いし。
この世の中、イケメンこそ、男の中でもっとも位の高い身分なのだ……
「……あいつは出木杉って奴で、大手の企業に勤めてて……」
「――そうじゃなくて!!」
そう叫ぶと、彼女はようやく足を止めた。そしてしばらく黙り込み、ゆっくりと振り返った。
「……あの女の人……誰よ……」
「……え?」
「え?えっと……しずかちゃんのこと?」
「……そうよ。その“しずかちゃん”のことよ」
彼女は目を伏せたまま、どこかふてくされたように言う。まるでおもちゃを買ってくれなかった子供のようにも見えた。
「ええと……しずかちゃんは、出木杉と同じ企業に勤めてて……」
「そういうのはいいの!のび太くんとの関係!」
「あ、ああ……しずかちゃんは、僕の小学校の時の同級生なんだよ。――あ、中学校も一緒だったか」
「ふ~ん……それで仲がいいのね………で?付き合ってたの?」
「つ、付き合う!?」
「……その反応を見る限り、付き合ってはないみたいね……」
「………」
「……ホント、分かりやすい反応するのね……ボソッ」
「……え?何か言った?」
「なんでも。――それより、ご飯食べに行きましょ。私、お腹空いちゃった」
そう言うと、彼女はまた前を向いて歩き始めた。
僕はそれ以上何も言えず、ただ彼女に付いて行くだけだった。
つづく
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