in the place...

in the place...(現場で) また、いつか会う人のためにも、これから出会う人の為にも、そんな出逢ったときの話のネタにして欲しくて・・・。 全ては、in the place.現場で起きています。

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The another story of ...#18

――それから数日後、僕はとある場所を目指していた。
電車を乗り継ぎ、その場所を目指す。

駅を降りたあとは、一度大きく息を吸い込んだ。

「……ずいぶん、久しぶりだなぁ」

固いアスファルトで舗装された道路を踏みしめながら歩く。いつもよりもペースは遅い。その場所の景色を、眺めながら歩いていた。
あまり様子は変わってはいない。ただ、空き地はなくなっていて、小さなアパートが立っていた。

やがて、その場所に辿り着いた。
少し見上げたその家は、古ぼけていた。

「こんなに、小さかったっけ……」

懐かしさを胸に、僕は呼び鈴を押す。

「――はぁーい」

中から、よく聞き慣れた声が響き渡った。そして、玄関は開く。

「どちら様―――あら?のび太?」

白髪交じりの髪をしたその人は、僕の顔を見て少し驚いていた。

「や、やあ……」

でも、すぐに優しい表情に戻した。

「……いらっしゃい。よく来たわね。――あなたー!のび太が来たわよー!」

その声に、家の中からもう一人が姿を現す。

「――のび太。よく来たな」

二人は、並んで僕を出迎えた。二人とも、とても穏やか表情で。
少しだけ照れてしまったけど、僕は少し声を大きくして、二人に言う。

「――ただいま、父さん、母さん……」

「――会社は、うまくいってるか?」

「うん。順調」

「そうか。それは何よりだ……」

台所で昼食を食べながら、父さんと話す。

「やぁねぇ、仕事の話は止しましょうよ。せっかくのび太が休みで来てるんだから」

母さんは苦笑いをしながら、お茶を用意する。

久しぶりの母さんの料理だった。美味しいこともあるが、それ以上にどこか懐かしい。おふくろの味って言うんだろうな。僕は、この味が好きだ……

「それにしても急ね。連絡すればもっと色々準備していたのに……」

「うん、ちょっと思い立ってね。ごめんごめん」

「なあに、別に構わんさ。こうして元気な顔を見せてくれるだけで嬉しいよ」

「うん……ありがとう」

父さんと母さんは、優しくそう話す。
小学校の時は、毎日のように怒られていたけど……その時も、後から決まって穏やかな表情で僕を見ていた。

怒られた記憶も、優しく慰められた記憶も、全てがこの家には詰まっている。
そして父さんと母さんは、変わらない笑みで僕を見ている。
少しだけ、重荷を置いて行こう……そう思った。

昼食の後、僕は2階の自分の部屋に行った。
綺麗に片付けられていて、埃も溜まっていない。母さんが掃除をしているようだ。
本棚のマンガは、年期は入っていたが、昔のままだ。

「……これ、懐かしいな……」

その一冊を手に取り、パラパラと捲る。昔、大笑いをしていたマンガだ。
内容自体は、当然だが子供向け。画風は今のものに比べてかなり古い。それでも、何だか懐かしくて、思わず笑みが零れた。

次に僕は、押入を開ける。そこには、布団が2セット収納されていた。

『ドラちゃんが帰ってくるかもしれないから……』

母さんはそう言って、ドラえもんの布団を残し続けている。そして今は、僕の分も。
二人分の布団は綺麗に折りたたまれ、いずれ使われる時を待っていた。

最期に、机を眺めた。
久しぶりに見る机は、とても小さかった。一度指で、机上をなぞる。昔ながらのアルミ製の机だった。
キャラクターの絵も、動く袖机もない。それでも、とても懐かしくて、僕にとって掛け替えのない宝物だ。
だって彼は、この机の引き出しから出てきたんだから……

僕は何かを期待するように、引き出しを開けてみた。鈍い音を鳴らした机は、その場所を解放する。
――そこは、ただの引き出しでしかなかった。

「……ま、そうだろうね……」

そこまで期待をしていたわけではない。それでも、何だか少しだけ、寂しく思った。

その後、外に出た。もう一度、街を歩いて回る。
街角のタバコ屋、雷爺さんの家、みんなの実家……。過ぎ去る景色は、僕の心を、まるで昔にタイムスリップさせるかのようだった。

河原の野球場では、子供たちが草野球をしていた。
施設が、ずいぶん新しい。
この野球場、実は最近整備されていた。それまでの野球場は、この十年でかなり老朽化していた。雑草が生い茂り、フェンスもボロボロになっていた。
それを、ジャイアンが修復した。もちろん当時野球をしていた僕らも、資金を出し合った。

『ここは、俺達ジャイアンズのホームグラウンドだ。またここで、絶対野球するんだ』

これが、ジャイアンの修復発案時の言葉。それに全員が賛同し、修復した。

しばらく河原に座り込み、野球を見る。少年達はワイワイ騒ぎながら、試合を楽しむ。

「打ったら逆転だぞー!!絶対打てよー!!」

ふと、一人の少年がバッターボックスに立つ少年にそう叫んだ。

「……打たないと、ギッタギタだからな……か……」

脳裏に焼き付けらた、ジャイアンの言葉を思い出した。

「打てないくらいで殴られるって……今考えても理不尽だよな……」

懐かしきジャイアン理論に、思わず苦笑いが浮かぶ。

「――野比?野比か?」

野球を見ていると、後ろから声をかけられた。白髪の、スーツを来たメガネのオジサン。

「……あなたは……先生……」

先生は、ニコッと笑みを浮かべた。

「……久しぶりだな、野比―――」

「……そうか。帰省してたのか……」

先生は僕の隣に座った。野球場からの少年達の声を聞きながら、雑談を繰り返す。

「先生は、まだあの小学校に?」

「まあな。ただ、私ももうすぐ定年だ」

「先生が……定年……」

時間の流れを感じた。あれだけ怖かった先生も、すっかり穏やかな表情となっていた。
髪も白くなり、体格も丸い。

「……しかし、野比も社会人か。あれほど0点を取った生徒は、野比、お前だけだったぞ?」

「ハハハ……面目ないです」

「いやいや、もう昔のことだ。それに、キミは今ちゃんと社会人として働いているではないか。
――あの頃は、私はキミたちに勉強をしてもらいたいがために厳しく言っていたが、キミの良さは分かっていたつもりだよ」

「僕の、良さ……」

「仲間思いで優しい男の子……勉強は出来なくても、それ以上に素晴らしいものを持ったのが、キミだ」

「……恐縮です」

「まあ、もう少し勉強が出来ていれば文句はなかったんだけどな!ハハハハ……!」

声を出して笑った後、その場を立ち上がる。
それに続き、僕も立ち上がった。

「……さて、私はそろそろ行かせてもらおうか」

「はい……先生、お元気で……」

「ああ。野比もな」

そして先生は、そのまま去って行った。
遠退く先生の背中は、どこか小さく見えた。


また、明日
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